
糖尿病内科
糖尿病内科
糖尿病とは、血液中の血糖値が慢性的に高い状態が続く病気です。主に1型糖尿病と2型糖尿病に分類されますが、日本では2型糖尿病が圧倒的に多く、代表的な生活習慣病の一つです。
2型糖尿病は、血糖値を下げるインスリンの分泌不足や、インスリンの働きが悪くなることが原因で起こります。過食、運動不足、肥満、ストレスといった生活習慣の乱れが発症に深く関係しています。
糖尿病を放置すると、高血糖状態が血管を傷つけ、身体中の様々な臓器に影響を及ぼします。特に毛細血管が集中する臓器である目・腎臓・神経に影響が現れやすく、「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」といった三大合併症を引き起こします。さらに動脈硬化を進行させ、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞といった命にかかわる病気のリスクも高めます。
糖尿病の主な原因は生活習慣に深く関連しています。特に以下の要素が重要です。
これらの要素が積み重なることで、インスリンの働きが悪化し、血糖値が持続的に高い状態となり、糖尿病が発症・進行してしまいます。
糖尿病の初期段階ではほとんど自覚症状がなく、進行するにつれて徐々に症状が現れてきます。よくみられる症状には、喉の渇き、頻尿、疲れやすさ、体重減少などがあります。特にのどの渇きや尿の量・回数の増加が顕著になることがあります。また、疲労感が抜けにくくなったり、体重が理由なく減少したりする場合も注意が必要です。そのほかにも、食後も空腹感が続く、皮膚のかゆみや乾燥、傷の治りが遅い、視力のぼやけや目のかすみなどの症状が現れることもあります。
次の項目に心当たりのある方は、一度糖尿病専門医の診察を受けることをおすすめします。
血管は血液を全身に循環させる重要な働きを持っていますが、糖尿病になると血糖値が高い状態が続き、その血管を傷つけたり、血液をドロドロにしたりして様々な負担を血管に与えます。とくに細い血管(毛細血管)は影響を受けやすく、毛細血管が集中する網膜、腎臓、手足に早いうちから障害が現れてきます。これが三大合併症(細小血管障害)といわれる「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」です。
また、高血糖の状態は毛細血管だけではなく、太い血管にも影響を与え、大血管障害と呼ばれる脳梗塞や心筋梗塞など、命にかかわる重大な病気を引き起こすこともあります。
これらの合併症は糖尿病と診断されたときから進行し、5~10年くらいで出現すると考えられています。
高血糖の状態を放置しておくと、失明、透析、手足の壊疽(えそ)などを引き起こす可能性もありますので、きちんと治療を受け、合併症を予防していくことが重要です。
糖尿病は末梢神経にもダメージを与えます。症状としては、手足がしびれたり、悪化すると痛みの感覚が鈍くなったりします(けがや火傷の痛みに気づかないなど)。とくに足は症状が悪化すると壊疽に至りやすく、場合によっては足の切断を余儀なくされる場合もあります。自覚症状があるので、早めに医師に相談しましょう。
初期から自覚症状なく進行します。網膜の毛細血管が傷つき視力低下や出血を起こし、最終的に失明に至ることもあります。糖尿病網膜症は日本人の失明原因の第2位です。糖尿病と診断されたら、自覚症状がなくても定期的に「眼底検査」を受け、良好な血糖コントロールを継続的に行っていくことが非常に大切です。
腎臓は糸球体という毛細血管の集まりでできており、血液をろ過しています。高血糖の状態になると、この糸球体が傷つきやすくなり、放置することで徐々に腎臓が傷つけられ、尿と一緒にたんぱくも出てきます。最終的には腎不全となり、人工透析が必要な状態に至ってしまうこともあり、最も注意すべき合併症の一つです。日本の人工透析導入の原因は、糖尿病性腎症が最も多く4割弱を占めています(2023年)。
当院では、糖尿病性腎症をいかに進展させないかということに、特に力を入れています。具体的には、定期的な尿検査(アルブミン・クレアチニン換算比:ACR)や血液検査で腎機能を丁寧にチェックし、早期に異常を発見できる体制を整えています。また、血糖コントロールだけでなく、血圧・脂質・体重の管理も重要なポイントです。生活習慣の見直しや食事療法をサポートし、必要に応じて腎臓を守る薬(SGLT2阻害薬やRAS阻害薬、GLP-1受容体作動薬など)の使用も検討します。
さらに慢性腎臓病(CKD)に進行した場合も進行度に応じたきめ細かい治療方針を立てることで、腎機能をできるだけ長く保ち、透析を回避、遅らせることを目指します。
腎症の進行を防ぐためには、医師と患者様が協力して治療を継続することが欠かせません。「数値を下げる」ことだけを目的にするのではなく、一人ひとりの生活に合わせた無理のない方法で長く続けていただけるように支援しています。
脳梗塞、心筋梗塞、脳卒中、皮膚病、感染症、閉塞性動脈硬化症、歯周病なども合併症として挙げられます。
食事は糖尿病治療の基本です。栄養バランスを考えた食事を適量とり、血糖値の急上昇を防ぎます。炭水化物・脂質・たんぱく質のバランス、食物繊維の摂取、塩分制限などを管理栄養士がアドバイスします。
適度な運動は血糖値を下げ、インスリンの働きを改善します。ウォーキングや軽い筋力トレーニングなど、続けやすい運動を提案します。持病や体力に合わせ、無理のない計画を立てます。
生活習慣の改善だけで血糖コントロールが難しい場合は、内服薬や注射薬を使用します。内服薬にはインスリン分泌を促す薬や血糖吸収を抑える薬など多くの種類があり、血糖コントールの状態、体形や合併症の程度や既往歴などそれぞれの患者様の状態によって選択する薬は変わってきます。ガイドラインやそれぞれの薬剤のエビデンスも考慮しながら、患者様の状況にあわせた治療をご提案します。
インスリンが必要な際は、膵臓の機能を評価し、その方に必要なインスリン量と種類と打つ回数を見極めます。インスリンを中止できる場合は、内服薬への切り替えも視野に入れて調整します。内服薬との併用によりインスリン量を減らすことができるかも考慮いたします。逆に状況によっては、早めのインスリン導入が望ましい場合もあります。
インスリンも種類によって効果の出方や持続時間が異なります。
当院では、内服薬のジェネリックにあたる「バイオシミラー製剤」も取り扱っております。さらに、注射薬については、使い捨てタイプからカートリッジタイプへ切り替えることで、1本あたりの自己負担額を抑えることができ、廃棄部分も少なくなるため環境にも配慮した選択が可能です。ぜひお気軽にご相談ください。
GLP-1は「インクレチン」と呼ばれるホルモンのひとつで、食事が小腸に到達すると分泌され、すい臓を刺激してインスリンの分泌を促します。特に食後など血糖値が上がったときに作用するため、低血糖を起こしにくいのが特徴です。
GLP-1受容体作動薬は、このGLP-1と似た働きを持つ薬で、体内で分解されにくいように作られています。長時間血糖を下げる作用がある一方、血糖値が低いときには作用が弱まるため、安全性の高い治療薬とされています。また、胃の動きを抑える効果によって食欲が低下し、自然に食事量が減ることで体重減少効果も期待できます。ただし、使い始めには吐き気や便秘などの消化器症状が出ることもあるため注意が必要です。
さらに、もう一つのインクレチンであるGIPの作用もあわせ持つ「GIP/GLP-1受容体作動薬」では、より強い血糖改善効果と体重減少効果が報告されています。
妊娠糖尿病とは、妊娠前には糖尿病と診断されていなかった方が、妊娠をきっかけに初めて糖代謝異常を指摘された場合を指します。妊娠前から糖尿病と診断されていた場合や、妊娠中に明らかな糖尿病と診断される場合は「糖尿病合併妊娠」と呼ばれ、管理方法が異なります。この場合、食事療法だけでは十分でないことも多く、妊娠前からの血糖コントロールや合併症の評価が必要になります。健康な赤ちゃんを迎えるためには、妊娠前から血糖を安定させておく「計画妊娠」がとても大切です。
近年、日本における糖尿病患者数の増加や晩婚化・晩産化の影響で、妊娠糖尿病の方も増えています。全妊娠の7~8人に1人は発症するとされ、年齢だけでなく家族歴や体質、生活習慣などさまざまな要因が関わっています。特に近親者に糖尿病のある方はリスクが高いとされています。
妊娠すると胎盤から分泌されるホルモンの影響で、インスリンが効きにくくなったり(インスリン抵抗性)、血糖値が上がりやすくなります。また、遺伝的な要因に加え、肥満、過去に大きな赤ちゃんを出産した経験、原因不明の流産・死産、妊娠高血圧症候群の既往、35歳以上の妊娠なども発症リスクとなります。さらに、切迫早産で子宮収縮抑制薬を使用した場合も、妊娠糖尿病を発症しやすいとされています。
妊娠糖尿病では、お母さんの高血糖が赤ちゃんにも影響し、母子ともに合併症が生じる可能性があります。
お母さんの合併症
妊娠高血圧症候群、羊水異常、肩甲難産、腎症や網膜症の悪化など
赤ちゃんの合併症
巨大児、形態異常、流産・胎児死亡、心肥大、低血糖、黄疸、多血症、小児期以降の肥満や生活習慣病リスク増加
このように、妊娠中だけでなく将来にわたる健康にも関わるため、適切な血糖管理が欠かせません。
妊娠糖尿病の治療は、まず食事療法が基本です。妊娠中は赤ちゃんのための追加カロリーが必要ですが、バランスの取れた食事を分割して摂ることで血糖の急上昇を防ぎます。妊娠後期には特に分割食が有効です。それでも血糖コントロールが不十分な場合にはインスリン療法を行います。妊娠中は経口血糖降下薬が使えないため、インスリン注射で厳密に管理します。目標は、空腹時95mg/dl未満、食後2時間で120mg/dl未満です。
運動療法は可能な範囲で取り入れますが、切迫早産などで制限されることもあるため、食事療法が中心となります。糖質制限は推奨されず、血糖上昇が緩やかな食品を選んだり、分割食で調整することが重要です。
妊娠中に高血糖が続くと、赤ちゃんが過剰に糖を受け取り巨大児となる一方、逆に食事を制限しすぎると低出生体重児となるリスクがあります。低出生体重児は「倹約遺伝子」が働きやすく、将来の糖尿病や高血圧、肥満のリスクが高まることが知られています。そのため、妊娠中は「厳格すぎず適切」な血糖管理が大切です。
出産後、多くの方はインスリン治療が不要になりますが、妊娠糖尿病を経験した女性は将来2型糖尿病を発症するリスクが約7倍に高まります。出産後3か月ごろにブドウ糖負荷試験を行い、その後も年1回程度の定期的なフォローアップが推奨されます。授乳期は血糖が安定していても、卒乳後に悪化するケースもあります。
妊娠糖尿病は一時的な病気ではなく、母子ともに将来の健康に深く関わる重要な疾患です。妊娠中は医師の指導のもとで食事療法や必要に応じたインスリン治療を行い、出産後も定期的なチェックを続けることが大切です。
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